サウナの中から「肯定的な空気」が生まれてほしい! ABiLがオリジナルのテントサウナを作った理由。

サウナの中から「肯定的な空気」が生まれてほしい! ABiLがオリジナルのテントサウナを作った理由。

新潟発のアウトドアサウナブランド「ABiL(アビル)」。サウナハットやタオルなどサウナ関連グッズの製作・販売を手がけるかたわら、新潟県内を中心に様々な場所でテントサウナの体験イベントを開催してきた。そんなABiLが8月下旬にMakuake(クラウドファンディング)で販売を始めるのが、ABiLオリジナルのテントサウナ&ストーブ。テントサウナで過ごす人のことを思い、細やかな機能とデザインが施されている。テントサウナを楽しんだあとはキャンプのベース基地として、夜には宿泊もできるテントとして形を変え、大切な人との時間に寄り添ってくれる。ABiLはなぜ、テントサウナまで作るようになったのだろう? この新しいプロダクトにはどんな思いが込められているのだろうか? 代表の湯浅亮さん、クリエイティブディレクターの長野美鳳さん、貿易担当の山田剛さんによる鼎談をお届けする。

 

 

INDEX

 

サウナのなかでは、肯定的な空気が生まれる

ほしいものがないなら、自分でつくる

「キャンプもできるテントサウナ」の誕生

「なにもない」ところを見る目が変わる

 

 

サウナのなかでは、肯定的な空気が生まれる

——ABiL 20216月に創業していますね。そもそもみなさんがテントサウナにはまったきっかけはなんですか?

 

湯浅:僕は音楽が好きなのですが、コロナ禍でライブやイベントに行く機会が激減しました。代わりにできる遊びがないかと考えていたタイミングで、たまたま出会ったのがテントサウナ。初めてテントサウナを体験したのは2020年の9月です。前々からメンタルバランスを整えるのにサウナはいいなと思っていたので、施設のサウナはよく利用していました。

 

長野:私はもともとサウナが好きではなく、むしろ銭湯のほうが好きだったんですけど、縁あって長野県野尻湖にある宿泊施設「LAMP」に泊まって。そこに「The Sauna」というアウトドアサウナが併設されていたので、試しに入ってみたんですね。ちょうど「ABiLのロゴマークをデザインして」とアキさん(湯浅さん)から頼まれていた時期でもあって、サウナに興味を持ち始めてもいました。そのサウナ体験がすごくよくて。

 

山田:僕はアキさんに誘われて、2020年の10月に初めてテントサウナに入ってはまりました。その一ヶ月後にはアキさんからABiLの構想というかアイディアを聞いて「それいいね、事業化しようよ!」と意気投合。そして20216月に創業するというスピード感です。しかもABiL立ち上げの話が始まり、決心したのはサウナの中(笑)

 

湯浅:サウナのなかで「こんなサウナがあったらいいよね」「こんなところでサウナできたらおもしろいよね」と次々にアイディアが出てきたんですよ。サウナでは汗もかいてるし、血流も上がってるし、脳も活性化してたからかな。サウナに入っているとあまり否定的にならないというか、「とりあえずやってみよう精神」が生まれる気がする。

 

 

長野:サウナって肯定的な空気が生まれる場所だよね。心がすごく開いている状態だから意見も言い合えるし、初めましての人とも仲良くなれる。

 

山田:僕たちはそういう雰囲気のことを「Good Sauna Vibes」と言っています。体が温まるとともに、心がほぐれる瞬間があって、自然と打ちとけ合えるような雰囲気。

 

長野:そうそう。サウナに入っているときにネガティブな人って少ないと思うんです。どちらかというと、サウナは精神的にポジティブになっていく場所だなと。サウナのなかで交わされるボジティブな会話の重なりが、いい雰囲気やいいバイブスを生んでいく。

 

 

湯浅:僕は、サウナを通して新しいコミュニティが形成されたり、サウナの中でイマジネーションが膨らむような会話がされて「今度一緒にイベントに行きましょう」とか「一緒にサウナ小屋つくりましょう」みたいな、次の行動やきっかけが生まれるのが好きなんです。その光景が見たくてABiLを立ち上げたと言ってもいいかも。アウトドアサウナって、必ずしもサウナが好きだから来ている人ばかりじゃなくて「友達がいるからとりあえず来てみた」という人など、それぞれに異なる目的を持って人が集まるからおもしろい。クラブにも似てるところがあるなと感じますが、いろんな価値観の人が同じ空間で過ごす時に生まれる一体感があると思います。それって施設のサウナではなかなか起こらないよね。

 

 

長野:施設サウナも好きだけど、施設サウナは「個」同士のサウナの楽しみ方だなって思います。テントサウナはみんなで一つの場所に集っていて、「ロウリュしてもいいですか?」とか自然と会話が生まれやすいんだよね。例えるなら、施設サウナが「コワーキングスペース」で、テントサウナは「コミュニティサロン」(笑)うまく言葉にできないけど、テントサウナはみんなでひとつの「整い」に向かっていくような感じなんですよね。

 

 

ほしいものがないなら、自分でつくる

——サウナ関連のグッズ製作や体験イベントに続いて、オリジナルのテントとストーブを自社企画で製作してしまうとは、ただならぬ熱意を感じます。テントサウナをつくるに至ったきっかけはなんですか?

 

湯浅:僕らがテントサウナにはまり始めた2020年の10月頃って、ロシア製かフィンランド製のテントサウナしか手に入らなかったんです。当時はテントサウナを扱う日本の輸入代理店も少なかったので、一番はじめにABiLが導入したロシア製のサウナは、Google翻訳を使ってロシア語でメーカーに直接メールして個人輸入しました。

 

山田:そのあとも何台かテントサウナを輸入したんですけど、使っているうちに色々と思うことがあって。

 

湯浅:そうそう。まず気になったのは耐久性。例えば、ストーブで薪を燃やすと大量の灰が出るんですけど、灰受け皿がすぐに詰まって取り出せなくなりました。一度詰まってしまったら取り替えることもできないので、買い換えるしかなくて。無理に使い続けたら、ボコボコに変形してしまいました。

 

長野:私たちからすると「あまりにも早く壊れすぎるなぁ」という感覚だったんです。大切な人と時間を過ごす空間をつくるものなのだから、長く使えるものであってほしいじゃないですか。テントサウナって比較的高価なものでもありますし。もったいない精神というか、物を長く使いたいなと思うのにそれができないことが悲しかった。

 

 

湯浅:あとはデザインですね。輸入サウナのストーブは、工業的なデザインが多いなと感じます。スチールの板金を曲げたような、無骨でミリタリーっぽさのあるデザインというか。テントも緑色やアースカラーベースのものが多くて、あまり自分自身の購買意欲が湧かなかったんですよね。そこで、ほしいものがないなら自分で作ってみようと思って。テントサウナに毎日のように入っていた経験から、改善点や新しいアイディアはあれこれ浮かんでいて。そこでデザイナーの美鳳ちゃん(長野さん)に声をかけたんだよね。

 

 

「キャンプもできるテントサウナ」の誕生

——新しく完成したストーブとテントには、どんなこだわりがありますか?

 

 長野:まずストーブについて説明すると、最初は国内のストーブメーカーさんに相談して、堅牢で熱効率がよく、蓄熱性の高い構造を一緒に設計していきました。外装に関しては、黒を基調としたクラシカルで親近感のあるデザインに。薪を入れる扉はゴールドなんですけど、黒と金の組み合わせって、昔ながらの海外のストーブを想起させるなと思って。海外のおばあちゃんの家にありそうなイメージです。角張っていて大きくて強そう、というのが今多いストーブの形ですが、角は丸くしました。扉には耐熱ガラスを使っているので、中の炎を見ることができ、あたたかな雰囲気が目でも楽しめます。ちなみに「ABiL」のロゴプレートが真鍮でできているのもポイント。使い込むほどに経年変化が感じられます。 

 

 

湯浅:流行に左右されないデザインにする、というのをずっと考えていたよね。テントに関しては、テントサウナという箱のなかでどんな時間を過ごしてほしいかというところから設計していきました。たとえば、僕らは新潟でサウナをするとき、外の自然を眺めながらサウナに入るのが好きだから、窓は大きめに。窓が大きければ外の人ともコミュニケーションが取りやすいので。必要に応じて窓を閉めることもできるから、プライベートとオープン、使い分けられるようになっています。

 

 

山田:少し細かい話なんですけど、テントサウナの煙突の位置ってそれぞれの製品により決まっているんですが、これがときに不便で。煙突の位置が変えられないというのはストーブの位置も変えられないということです。つまり、置きたい向きにサウナが置けなかったりするんですね。せっかく海の見える場所なのに、サウナからは見られないということがたまに起こる。そこでABiLのテントは煙突を2箇所から出せるようにして、ストーブの配置が柔軟に決められるようにしました。小さなことなんですけど、これで風景も含めた空間づくりにこだわれるようになったと思います。

 

 

湯浅:そして、このテントサウナの最大の特徴が、テントサウナをしたあとにそのままキャンプができるというところ。どういうことかというと、サウナが終わったあとにテントの一面を跳ね上げられるようにして、そこをキャンプのベース基地にできるようにしたんです。つまり跳ね上げた部分が屋根となり、キャンプのタープ代わりになるんですね。蚊帳をつけてテントのようにすることもできるので、グランドシートを敷いたり、コット(アウトドアベッド)を置くことで、そのまま宿泊もできます。

 

 

長野:テントサウナをするときって、自然のなかの気持ちのいい場所を探すじゃないですか。せっかくその場所を見つけたのだから、サウナが終わってもそのまま余韻に浸ってほしいなと思って。

 

湯浅:たとえば跳ね上げた屋根の下にテーブルや椅子を置いてくつろげるようにしたり、バーベキューをしてご飯を食べたりするのもおすすめです。寒い季節であれば、そのままストーブを焚いたままでもいいと思います。まるで暖炉のあるリビングルームのようになります。

 

山田:テントサウナもキャンプもするとなると、テントサウナ用のテント、ストーブ、キャンプ用のテント、タープ……と荷物がすごいことになってしまいますが、これであればかなり身軽です。デイキャンプにもちょうどいい。

 

 

湯浅:グループでテントサウナとキャンプを楽しむという場合は、宿泊用テントはそれぞれで持ってきて、テントサウナはみんなが集合するベース基地として使うのもアリだと思います。サウナの後も遊び場となり、社交場になるテントサウナ。きっと心地よい場をつくってくれると思います。

 

 

「なにもない」ところを見る目が変わる

 ——最後に「ABiL」のみなさんがテントサウナの活動をする上で大切にしている価値観を教えてください。

 

長野:これはABiLの立ち上げのときに3人でよく話していたことなんですけど、私たちがなぜ「新潟から」アウトドアサウナを発信していくのかということについて。新潟県は縦に長くて、海も山もあって、さらに佐渡とか粟島とか島もあるから、場所によって風景がまったく違うんですよね。例えば夏に新潟市の関屋浜で海を眺めながら入るサウナと、冬に妙高市で雪化粧をした妙高山を眺めながら入るサウナとでは全然違う。そういう新潟の美しい風景に、私はテントサウナに入り始めてからたくさん出会うようになった気がして。

 

湯浅:わかる。僕はアウトドアもあまりしないし、テントサウナを始める前までは新潟の田舎にはあまり行かなかったです。

 

 

長野:スキーやキャンプなど、アクティビティの数だけローカルのおもしろさを楽しめるというのはあると思います。例えば私はスノボをするけど、アキさんはしないから雪山を見ても綺麗だな、くらいにしかきっと思わないよね。私はスノボがしたいからワクワクするんだけど。

 

湯浅:だからテントサウナってすごいのだと思います。新潟に住んでいると美しい景色も当たり前になってしまって、つい「なにもない」と思い込んでしまう。でも、テントサウナがあることによって「なにもない」と思っていたところが目的地になるし、そこへ足を運ぶきっかけになる。

 

長野:そうそう。3人で「テントサウナが美しい景色や日本の原風景を再発見するきっかけになったらいいよね」と話していて。実際に私は自然を見る目線が変わりました。水がきれいな川を見つけると水風呂に見えるし、ちょっとした林や森を見つけたら「ここで外気浴したら気持ち良さそうだなぁ」と思うように(笑)

 

山田:どこへでも持っていけるというモビリティがあるのは強いんですよね。年中あちこちで楽しめる。

 

湯浅:新潟って四季折々のアクティビティや観光名所がたくさんあるんですけど、シーズンオフになると閑散とした誰も行かない場所になっていることも多いです。例えばスキー場だったり海の家だったり。そういうところに人を呼び込めるのはサウナのいいところですよね。実際にABiLでは、2021年の37日(サウナの日)に冬の海の家でサウナのイベントをやりました。

 

 

 

山田:めっちゃ寒かったけどね(笑)テントサウナ4台が稼働して、DJイベントやシーシャ、フード販売も用意しました。アキさんもDJをして。60人くらい来てくれました。初めて会う人も多かったけど、すぐに仲良くなれたよね。

  

湯浅:僕らはテントとストーブの販売を始めるわけですが、その先に目指しているものは、最初に言ったような「肯定的な雰囲気」が生まれる場所をどんどん増やすということです。だから、僕らの製品を手に取ってくれた人が自分の感性で美しい風景を見つけて、友達や家族など大切な人と一緒にサウナに入って、いいバイブスを感じてほしい。「そのために必要なことは、全部やっておいたよ!」というのが、この新しいテントサウナです。日本各地でABiLのテントサウナが使われて、サウナの中からポジティブなエネルギーが生まれていく。そんなことになったら最高だなと思っています。

 

インタビュアー:橋本  安奈 

 

 

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